前回は「自己愛」についてお話ししました。

関連記事:第32回:自己愛とは何か?ナルシシズムとの違いと、健全な自己愛の育て方

自分が満たされているから、自然に与えられる。

反対に、自分の中が空っぽのまま与え続けると、いつしか愛は「空洞を埋めるための行動」へと変わってしまいます。

では、自分を大切にしながら他者を愛するとは、どういうことなのでしょうか。

ここで多くの人がぶつかる壁があります。

  • 相手のことを思うと、自分を後回しにしてしまう
  • 断ったら冷たい人だと思われそう
  • もっとしてあげられるはずなのに、と罪悪感がある
  • 人の感情に振り回されて疲れてしまう
両手を広げた女性の体に、周囲から光の粒や波紋が流れ込んでいるイラスト。感じ取る力が強い人が他者の感情を受け取りすぎている状態を詩的に表現

そんな経験はありませんか。

感じ取る力が強い人ほど、人の痛みや不安に敏感です。

しかし、本当に消耗の原因になっているのは、その能力そのものではありません。

大切なのは、感じ取ったものを抱えるのか、流すのか。

今回は「共感疲労」と「境界線」をテーマに、愛しながら自分を守る方法について考えていきます。

愛することと消耗することは違う

まず最初にお伝えしたいことがあります。

愛することと、消耗することは違います。

その違いを生むのは、

「どれだけ感じ取るか」

ではなく、

「感じ取ったものをどう扱うか」

です。

優しい人ほど、人の感情を深く受け取ります。

だからこそ、自分を守る方法を知ることも大切なのです。

感じ取る力は弱さではなく能力

他人の感情が自分に流れ込んでくる。

その場の空気の変化にすぐ気づく。

誰かの本音が言葉になる前に伝わる。

悩み相談をよく受ける。

こうした特徴を持つ人は、感情を感じ取るセンサーが人より繊細に働いています。

これは弱さではありません。

能力です。

看護師として働いていると、

「この患者さん、何かが違う」

と、検査データに表れる前に感じることがあります。

実際にその後、体調変化が見つかることも少なくありません。

感じ取る力は、人類が集団で生き延びるために発達させてきた力でもあります。

危険を察知する人。

仲間の異変に気づく人。

場の空気を読む人。

そうした存在がいたからこそ、人は助け合いながら生きてこられました。

問題は感じ取ることではありません。

共感疲労の本当の原因は「抱え込むこと」

では、なぜ疲れてしまうのでしょうか。

共感疲労の原因は、

感じ取ることではなく、抱え込むこと

です。

例えば、

  • 誰かの重い話を聞いたあとも気持ちを引きずる
  • 職場の空気が悪いと自分まで苦しくなる
  • 家族の不安を自分の不安として背負ってしまう

そんなことはないでしょうか。

感情は本来、川の水のようなものです。

小川のほとりに座り、水面にそっと手を添えて流れを眺めている女性のイラスト。感情は川の水のように流れてきて流れていく、抱え込まなくていいというメッセージを表す

流れてきて、流れていく。

受け取ってもいい。

感じてもいい。

でも、自分の中にため込む必要はありません。

「これは私の感情ではなく、相手から流れてきたものかもしれない」

そう気づくだけで、消耗の仕方は大きく変わります。

共感疲労には2種類ある

① 感情の共鳴による消耗

相手がつらいから、自分もつらくなる。

痛みがそのまま流れ込んでくる。

感じ取る力が強い人に起こりやすい疲労です。

原因は「抱え込むこと」です。

② フォースの混入による消耗

感じ取ったあとに、

  • もっと頑張らなければ
  • なんとかしてあげなければ
  • できない私はダメだ

という義務感や罪悪感が加わる状態です。

感じ取る力そのものではなく、

フォースが混ざることで消耗が大きくなる

のです。

関連記事:第4回:なぜ疲れ果てる? フォースが疲弊させる5つの理由

同情・共感・慈悲の違い

感情の受け取り方には、大きく3つの段階があります。

同じ海を舞台に3場面を並べたイラスト。左は嵐の波に一緒に飲まれる二人(同情)、中央は岸から手を差し伸べる人(共感)、右は高台から光を送る人(慈悲)。3つはグラデーションであり優劣ではないことを表す
同情共感慈悲
相手の感情の中に一緒に入っていく。 「かわいそう」と、一緒に沈む。相手の感情を感じながら、自分の軸を保つ。
「そうか、そんなにつらかったんだね」とそばに立っている。
相手の感情を受け取りながら、「この人がそうであることも、受け入れている」状態。
自分の軸
失いやすい
自分の軸
保てる
自分の軸
深く安定している
エネルギー
消耗しやすい
エネルギー
保てる
エネルギー
保てる

同情が悪いわけではありません。

共感が正しいわけでもありません。

大切なのは、

今の自分がどこにいるのかを知ること

です。

それが消耗を防ぐ第一歩になります。

「なんとかしてあげたい」は自然な愛

誰かが苦しんでいる。

その姿を見て、

「何か力になりたい」

と思う。

これはとても自然な愛です。

決して間違いではありません。

ただ、慈悲の段階になると、もう一つの感覚が加わります。

「なんとかしてあげたい」

と同時に、

この人がこの体験を通ることにも意味があるのかもしれない

と感じられるようになります。

関わりたい。

でも支配しない。

助けたい。

でも相手の人生を信頼する。

この二つが同時に存在するとき、愛は消耗ではなく深まりへと変わっていきます。

境界線と、その先にあるもの

「境界線を引く」という言葉に、冷たい印象を持つ人もいるかもしれません。

でも本来の意味は違います。

「ここまでは私、ここからはあなた」

というお互いの領域を大切にすることです。

私自身、人の痛みを感じ取ることに疲れて、
できるだけ深く関わらないようにしていた時期がありました。

感じ取る力が強い分、
誰かが寄りかかってくると、
その重さを自分の中に抱えてしまう。

気づけば、じわじわと苦しくなっていました。

そこで学んだのが、
きっぱりと断ることでした。

距離を置くこと。

自分を守ること。

境界線を引くこと。

それは当時の私に必要な学びでした。

でも最近、少し変化を感じています。

以前よりも、
自分で立とうとする人が増えてきたように感じるのです。

誰かに寄りかかるのではなく、
自分の足で歩こうとする。

壁にぶつかりながらも、
その壁を越えようとしている。

その姿は、とても美しいと思います。

そして、人が成長していくうえで
大切な過程なのだとも感じています。

だから今、私が大切にしたいのは——

その人の力を信じながら、ただそばにいること。

解決しなくていい。

引き上げなくていい。

答えを与えなくていい。

その人が自分で立つ力を、
静かに信じていること。

それが今の私にとっての

「そばに立つ」

という意味です。

夕暮れの野道を一人歩いていく人物の後ろ姿を、手前の女性が穏やかな表情で見送っているイラスト。引き止めるのではなく、その人の力を静かに信じてそばにいることを表す

愛しながら自分を守る3つの境界線

感じ取る力が強い人ほど、人との境界線が曖昧になりやすいものです。

でも、境界線は相手を拒絶するためのものではありません。

自分を守りながら、長く愛し続けるための土台です。

① 引き受けない境界線

感じ取る力が強い人ほど、

「困っているなら助けなければ」
「頼まれたら断れない」

と思いやすいものです。

でも、すべてを引き受けることと愛することは違います。

本当は余裕がないのに引き受け続けると、
やがて疲れ果ててしまいます。

そんなときは、

「今はできません」
「今回は難しそうです」

と伝えても大丈夫です。

NOは拒絶ではありません。

自分を守るための健全な境界線です。

② 混ぜない境界線

誰かと関わったあと、

なぜか自分まで不安になる。

職場の空気が重いと、
自分の気持ちまで沈んでしまう。

そんなときは、一度立ち止まって問いかけてみてください。

この感情は、本当に私のものだろうか

感じ取る力が強い人は、
相手の感情を自然に受け取ります。

でも、受け取ることと、
自分の感情として抱えることは別です。

「これは流れてきた感情かもしれない」

そう気づくだけで、
心の中に少し余白が生まれます。

③ 持ち帰らない境界線

誰かの悩みを聞いたあとも、
その人の感情を持ち帰っていませんか。

相手の苦しさを感じることはできます。

寄り添うこともできます。

でも、その重さまで背負う必要はありません。

一日の終わりに、

今日受け取ったものを、ここに置いていく

と心の中でイメージしてみてください。

そして、深呼吸をする。

散歩をする。

好きなお茶を飲む。

静かな時間を過ごす。

自分を整えることは、わがままではありません。

川が流れ続けるために上流から水が注がれるように、

自分を満たすことは、
愛し続けるために必要なことなのです。

窓辺でお茶を両手で包み、目を閉じて穏やかに息をついている女性のイラスト。自分を整えることは愛し続けるために必要なことという安堵感を表す

今週の実践

今週一週間、人と関わる中で次の3つを観察してみてください。

① 今、本当はNOと言いたいことはないか

② 今感じている感情は、自分のものか、それとも流れてきたものか

③ この問題は私が背負うものか、それとも相手が向き合うものか

答えを出そうとしなくて大丈夫です。

ただ気づくだけで十分です。

境界線は、急に引けるようになるものではありません。

まずは、

「どこまでが私で、どこからが相手なのか」

を観察することから始まります。

その小さな気づきが、感じ取る力を消耗ではなくパワーとして使う第一歩になっていきます。

今回のポイントを、最後にもう一度整理しておきます。

今回のまとめ

  • 愛することと消耗することは違う
  • 消耗の原因は感じ取ることではなく抱え込むこと
  • 共感疲労には「感情の共鳴」と「フォースの混入」の2種類がある
  • 同情・共感・慈悲の違いを知ることが第一歩
  • 境界線は、自分と相手の領域を大切にするためのもの
  • 自分を整えることは愛し続けるために必要なこと

次回予告

第34回:愛による癒しの力|関係性はどう変わるのか

愛は単なる感情ではありません。

ときに人と人との関係性そのものを変えていく力になります。

次回は、愛が実際に関係性を修復し、深めていく過程を、看護師としての体験や日常のエピソードを交えながら見ていきます。

※本シリーズはデヴィッド・ホーキンズ著『パワーかフォースか』をもとに、看護師としての体験や日常の気づきを交えながらお届けしています。

パワーかフォースかシリーズ(全33回)
進捗: 33/33回完了
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第33回:他人の感情に疲れる人へ|共感疲労を防ぎながら愛を広げる方法
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看護師15年目 民生委員児童委員 誰も省かれることない社会、みんなが輝く社会を ほっこりするような読後感をめざします!