第17回:欲望に振り回されない技術|空海『大欲を欲せよ』
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「欲しい」と「必要」の間で揺れ動いていませんか?
「あれも欲しい、これも欲しい」と思いながらも、手に入れた後になって「なんで買ったんだろう」と後悔したり。
SNSで誰かの素敵な生活を見て「私も同じものが欲しい」と強く思ったけれど、しばらくすると興味を失ってしまったり。
もっと多くのお金が欲しい、もっと認められたい、もっと愛されたい…そんな「もっと、もっと」の声に疲れてしまうことはありませんか?
現代社会は「欲望を刺激することで成り立っている」と言っても過言ではありません。
広告、SNS、周りの人との比較…私たちは常に「何かが足りない」「もっと必要だ」というメッセージに囲まれています。
でも、デヴィッド・R・ホーキンズ博士の「パワーか、フォースか」によれば、欲望という感情も、上手に付き合えば私たちの成長を助けてくれる大切なエネルギーなのです。
今日は、欲望に振り回されることなく、本当に必要なものを見極める優しい技術をお伝えしたいと思います。
恐怖(100)よりも高く、より多くの創造的エネルギーを持った状態
自分の外にあるものを手に入れることで満たされようとしている状態です。


欲望という強力なエネルギー
欲望は、あなたを動かす原動力
まず最初に、とても大切なことをお伝えします。
欲望は、悪いものではありません。
欲望は、とても強力なエネルギーを持っています。何かを欲しいと思う気持ち、何かになりたいと願う心。これらは、あなたを行動に駆り立てる原動力です。

人類の進歩も、芸術も、科学も、すべて欲望から生まれました。
「もっと良い世界を作りたい」
「美しいものを創りたい」
「真実を知りたい」という欲望が、私たちをここまで連れてきたのです。
問題は、欲望そのものではなく、そのエネルギーをどこに向けるかです。

いつまでも満たされない消費
でも現代社会を見渡すと、多くの人が欲望のエネルギーを消費に使っています。
新しいスマホが欲しい
↓
買う
↓
しばらくすると、また新しいものが欲しくなる
高級ブランドが欲しい
↓
手に入れる
↓
次のシーズンの新作が気になる
もっとお金が欲しい
↓
貯める
↓
でも不安は消えない
買った瞬間は満たされた気持ちになります。
1週間後には、もう慣れてしまっています。
1ヶ月後には、次の欲望が顔を出します。

せっかくの強力なエネルギーが、一時的な満足に消費されていく。終わりのないサイクルに陥ってしまう。
なぜ、いつまでも満たされないのでしょうか?
空海の教え:欲望を肯定し、方向を変える
空海は欲望を否定しなかった
平安時代、空海は人々に向かって驚くべきことを言いました。
「大欲を欲せよ」
多くの宗教が欲望を手放すことを説く中で、空海は「欲を起こせ」と言ったのです。
これは矛盾しているように聞こえるかもしれません。
でも空海は、欲望そのものを否定しませんでした。むしろ、欲望は人を動かす原動力であり、使い方次第で世界を変える力になると見抜いていたのです。
老子
「知足者富」
「足るを知る者は富む」という意味で、現状に満足し、分相応で満ち足りることを知っている人は、たとえ貧しくても精神的に豊かで幸福である

釈迦
「少欲知足」
「欲望を少なくし、足ることを知る」という意味で、際限なく湧き上がる欲求を抑え、今あるもので満足し、穏やかな心でいる状態を指す

空海
「大欲清浄」
世のため人のためという大きな欲を持つことで、真の清らかさと幸福(安楽)を得る

空海が区別したのは、欲望の「質」と「方向」でした。
小欲と大欲
空海は欲望を二つに分けました
小欲(しょうよく)
自分だけが満たされたい、自分だけが得をしたいという欲望
- 他人より優位に立ちたい
- 自分だけのものにしたい
- 不安や恐れから「もっと、もっと」と求める

大欲(たいよく)
自分も周りも、一切衆生(すべての生きとし生けるもの)が幸せになってほしいという欲望
- みんなが幸せになってほしい
- 喜びを分かち合いたい
- 世界をより良くしたい

そして空海は「小欲を捨てて、大欲を起こせ」と教えました。
空海という人の大欲
空海自身が、まさにこの大欲を体現した人でした。
彼は若い頃から「この世界の苦しみを何とかしたい」「人々を救いたい」という強い願いを持っていました。
その願いは、自分だけが悟りを開いて満足するというものではなく、すべての人が幸せになれる道を示したいという壮大なものでした。
命がけで唐に渡り、密教を学び、日本に持ち帰ったのも、高野山を開いたのも、庶民のための学校「綜芸種智院」を作ったのも、すべてこの大欲から生まれた行動でした。
「世界を救いたい」という欲望。これが空海を動かし続けたのです。

欲望というエネルギーを否定するのではなく、その方向を変える。
これが空海の教えでした。
マズローの欲求階層説:最上位の欲求は建設的
西洋心理学が見出した真実
興味深いことに、20世紀の心理学者アブラハム・マズローも、空海と同じ真実に辿り着きました。
マズローは、人間の欲求を5段階の階層で説明しました
第1段階:生理的欲求 – 食べたい、眠りたい、生き延びたい
第2段階:安全の欲求 – 安心したい、危険から守られたい
第3段階:所属の欲求 – 仲間が欲しい、愛されたい
第4段階:承認の欲求 – 認められたい、尊重されたい
第5段階:自己実現の欲求 – 自分の可能性を発揮したい、創造したい
下の段階の欲求が満たされると、人は次の段階へと進んでいきます。
自己実現欲求は建設的なエネルギー
そしてマズローが発見したのは、最上位の自己実現欲求は、他の欲求とは質が違うということでした。
第1〜4段階の欲求は「欠乏欲求」です。何かが足りないから、それを埋めようとする欲求。満たされれば消える欲求。
でも第5段階の自己実現欲求は「成長欲求」です。満たされれば消えるのではなく、満たされるほど、さらに成長したくなる欲求。
- 「自分の才能を活かして、誰かの役に立ちたい」
- 「美しいものを創造したい」
- 「真実を探求したい」
- 「世界をより良くしたい」

これらは、まさに空海の言う「大欲」と同じものです。
東洋と西洋の智慧が一致する
空海の「大欲」と、マズローの「自己実現欲求」。
1200年の時を超え、東洋と西洋で、同じ真実が見出されました。
欲望というエネルギーは、最上位の使い方をすると、建設的で持続的な満足をもたらす。
そして私たちは、そのエネルギーをどう使うかを選ぶことができるのです。
大欲への変換:欲望のエネルギーを建設的に使う
欲望のエネルギーを、どこに向けるか
欲望というエネルギーは、とても強力です。
問題は、そのエネルギーをどこに向けるかです。
消費に向ける(小欲)
一時的な満足。
エネルギーは減っていく。
終わりがない。

創造・貢献に向ける(大欲)
持続的な満足。
エネルギーは増えていく。
満たされ続ける。

そして、どちらを選ぶかは、あなた自身が決められるのです。
マズローの言う「承認欲求」の段階から「自己実現欲求」の段階へ。
空海の言う「小欲」から「大欲」へ。
この移行は、自分の意志で選択できます。
小欲を大欲に変換する3つのステップ
では、どうやってエネルギーの向きを変えていけばいいのでしょうか?
ステップ1:欲望の奥にある本当の願いを知る
何かが欲しくなったとき、まずその欲望を優しく認めてあげてください。
「高級なバッグが欲しい」
「もっとお金が欲しい」
「SNSでたくさんの『いいね』が欲しい」
そして、その奥にある本当の願いを探ります。

「高級なバッグが欲しい」の奥には
↓
「素敵な自分でいたい」
「自信を持ちたい」

「もっとお金が欲しい」の奥には
↓
「安心して生きたい」
「大切な人を守りたい」

「『いいね』が欲しい」の奥には
↓
「認められたい」
「つながりを感じたい」
ステップ2:「私だけ」から「私たちも」へ視野を広げる
自分の願いが分かったら、少しだけ視野を広げてみます。
小欲の言葉 ➔ 大欲への変換

「私だけが素敵でいたい」
↓
「私も周りの人も、お互いを尊重し合いたい」

「私だけが安心したい」
↓
「私も大切な人たちも、安心して生きたい」

「私だけが認められたい」
↓
「私も周りの人も、それぞれの価値を認め合いたい」
無理に「世界中の人を救いたい」と大げさに考える必要はありません。
まずは、「私だけ」から「私たちも」へ。
自分の周りの大切な人たちへと、円を少しずつ広げていくだけでいいのです。
ステップ3:自分の意志で、大欲の行動を選ぶ
最後に、実際の行動を選びます。
小欲の行動 ➔ 大欲の行動

他人のバッグと比較して優越感に浸る
↓
- 自分の価値観に合ったものを選び、それを大切に使う
- 外見だけでなく、内面の成長にも時間を投資する

自分だけが得をすることを優先し、他人を出し抜く
↓
- 「お金が回ることで、みんなが幸せになる」という視点で消費・投資する
- 自分も他人も豊かになるビジネスや取引を心がける
- 持続可能な方法で収入を得て、社会全体が豊かになる仕組みをつくる

数字(フォロワー数、いいね数)だけを追い求める
↓
- 「いいね」の数ではなく、深い対話や相互理解を大切にする
- 自分の本当の経験や想いを誠実に表現する
ここで大切なのは、自分の意志で選ぶということです。
誰かに強制されるのでもなく、社会に流されるのでもなく、あなた自身が「私は大欲の行動を選びます」と決める。
ここで、もう一つ大切なことがあります。
大欲とは、自分を犠牲にすることではありません。
空のコップからは、水を注ぐことができません。
自分の存在価値に気づき、自分を満たす。 満たされた自分から、初めて周りの人に与えることができます。
満たされているとき、そこから溢れ出るエネルギーを、自然と周りの人のために使いたくなります。
これは義務感からではなく、喜びから生まれる行動です。 これが、本当の意味での「大欲」であり、マズローの言う「自己実現」なのです。
日常でできる「大欲」を育てる習慣
毎晩:蝋燭の瞑想で自分を満たす
まず、自分を満たすことから始めましょう。
今日の夜、寝る前に、蝋燭を一本灯してください。たった5分、炎を見つめるだけの瞑想です。
椅子でも床でも、楽に座れる場所を見つけます。 背筋を優しく伸ばして、肩の力を抜きます。
蝋燭の炎を、ただ静かに見つめます。
炎は揺れています。 消えそうになったり、また大きくなったり。 でも、ずっとそこにあります。
心の中に、いろんな思いが浮かんでくるかもしれません。
「明日のこと」「今日の失敗」「欲しいもの」「不安なこと」
それらを追いかけず、ただ炎を見つめ続けます。
炎の温かい光が、あなたの心のざわつきを、ゆっくりと溶かしていきます。

3分でも5分でも構いません。
この静かな時間が、あなたを満たしていきます。
自分を満たすこと。これが、大欲へと向かう土台になります。

いつでも:三密を整える
空海は、身体・言葉・心の三つを整えることを教えました。これを三密と呼びます。
欲望が湧いてきたとき、何かを選択するとき、いつでも好きなときに実践できます。
身密:体を整える

背筋を優しく伸ばします。無理に頑張らなくて大丈夫。
手は膝の上か、楽な位置に。
肩の力を抜いて、ゆっくり呼吸します。
体が整うと、心も落ち着いてきます。
口密:言葉を整える

心の中で、または小さな声で唱えます。
『今日も一日、ありがとうございました』
『私は今ここにいます』
『私は存在しています』
言葉を唱えることで、心が今この瞬間に戻ってきます。
意密:心を光で満たす

ゆっくりと目を閉じます。
心の中にある、不安や焦り、「足りない」という思い。
それらを、優しい光が自分を包み、ゆっくりと溶かしていくイメージをします。
光は温かく、何も裁かず、ただそこにあります。
あなたの心のざわつきが、少しずつ、光に溶けて消えていきます。
欲望が湧いたとき:3つの質問
何かが欲しくなったとき、買い物カートに入れる前に、この3つの質問を自分に投げかけてみてください。
1. 「この欲望の奥にある本当の願いは何だろう?」
物そのものが欲しいのか、それとも物が象徴する何かが欲しいのか。 承認欲求なのか、自己実現への願いなのか。
2. 「これを手に入れたとき、周りの人はどうなるだろう?」
自分だけが満足するのか、周りの人も喜ぶのか。
3. 「この願いを、もっと建設的に満たす方法はないだろうか?」
消費以外の方法で、同じ願いを創造や貢献に変えられないか。
この3つの質問が、小欲を大欲に変換するヒントをくれます。
まとめ:欲望は、使い方次第で人生を変える力になる
本当の豊かさとは、たくさんのものを所有することではありません。
自分の存在価値に気づく力
欲望のエネルギーを建設的に使う力
持続的な満足を得る力
これらを持つことです。
空海は1200年前に、この真理を見抜いていました。マズローは20世紀にそれを科学的に証明しました。そしてホーキンズ博士は、意識レベルという形でそれを体系化しました。
時代も場所も違う智慧が、すべて同じことを指し示しています。
欲望というエネルギーは、悪いものではない。そのエネルギーを、消費ではなく創造に、小欲ではなく大欲に向けることができれば、人生は持続的な満足に満たされていく。
あなたの中にある欲望も、きっと「もっと素敵な人生を生きたい」という美しい願いから生まれています。その願いを大切にしながら、振り回されるのではなく、建設的に使っていく。
「私だけ」から「私たちも」へ。
「消費」から「創造」へ。
「欠乏」から「成長」へ。
この変換が、あなたの人生を、そして周りの人の人生を、豊かに変えていく力を持っているのです。
そしてそれは、あなたが選ぶことができるのです。
次回予告: 来週は「怒りの正体に気づく|イライラが教えてくれる「自分の枠組み」」をお届けします。欲望という情熱的なエネルギーと仲良くなったあなたが、今度は怒りという力強い感情をどのように創造的な力に変えていくかを一緒に探っていきましょう。

