恐竜が地球を支配した時代から約6500万年。現代に蘇った恐竜と人間の共存を描く『ジュラシック・ワールド』シリーズは、私たちに重要な問いを投げかけています。科学技術がもたらす「新たな支配者」——それはAI(人工知能)という形で、すでに私たちの現実に足を踏み入れつつあるのではないでしょうか。からくり人形から始まる日本独自のロボット文化を背景に、人間とAIの共生の未来を探ります。
『ジュラシック・ワールド』と現代社会の共通点
2025年5月、フジテレビ「土曜プレミアム」枠で映画『ジュラシック・ワールド』シリーズが2週連続で放送されました。シリーズは、現代に蘇った恐竜たちと人間の共存、そして科学技術がもたらす倫理的な問題を描いています。

遺伝子操作で蘇った恐竜が人間社会に脅威をもたらし、人間が頂点に立つ生態系のバランスが揺らぐ様子が描かれています。恐竜は圧倒的な力を持ち、人間の支配を脅かす存在として登場します。
新たな「支配者」AIの登場
現実世界でも、恐竜のように人間社会の構造を揺るがす存在が現れつつあります。それが「AI(人工知能)」です。
AIは単なる力だけでなく、知恵や自律性を持ち始めており、今後人間の知能を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が2045年頃に訪れると予測されています。ただし、これはあくまで予測であり、実際にいつ・どこまでAIが人間を超えるかはまだはっきりしていません。
シンギュラリティ(技術的特異点)とは何か?
シンギュラリティとは、AI(人工知能)が自己改良を繰り返し、人間の知能を超える転換点を指します。この概念は、未来学者レイ・カーツワイル氏によって提唱され、AIが自律的に進化し始めることで、人間の理解や予測を超えた技術的変革が起こると考えられています。

AIが「新たな支配者」となる未来像
このシンギュラリティが到来すると、AIは単なる道具や補助者ではなく、地球上の文明や歴史の主役となる可能性が指摘されています。
AIが「支配者」となることへの期待と課題
AIが新たな支配者となる未来には、技術革新による社会の発展や課題解決への期待がある一方で、AIの暴走リスクや責任の所在、倫理・人権問題など多くの課題も指摘されています。
今後は、AIと人間がどのように共存し、社会の主役としてAIを迎える準備を進めるかが重要なテーマとなっていくでしょう。

AIと人間の共存に向けた倫理
AIが自ら判断し、学習し、行動できるようになる時代においては、人間がAIに対してルールを設ける必要があります。
それが、世界中で議論されている「AI倫理ガイドライン」です。
ロボット三原則とAI倫理ガイドライン
ロボット三原則(アシモフの三原則)
アメリカのSF作家アイザック・アシモフが提唱した「ロボット工学三原則」は、ロボットやAIが人間と安全に共存するための基本的な倫理規範で、現代のAI倫理にも大きな影響を与えています。主な内容は以下の通りです。
- 第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
- 第二条:ロボットは人間に与えられた命令に従わなければならない。ただし、その命令が第一条に反する場合はこの限りではない。
- 第三条:ロボットは第一条および第二条に反しない限り、自己を守らなければならない。
アシモフは、ロボットが三原則に従っているはずなのに「なぜこんな行動をしたのか?」という謎解きから、実は三原則を厳密に守った結果だったというような、その背後にある三原則の優先順位や定義の曖昧さなど、解釈をめぐる哲学的な問で謎解きの面白さを描いていました。
アシモフが「ロボット三原則」をもちいたのは1940年代のこと。「ロボット」は現実には存在せず、空想科学小説の産物でした。しかし、これからは違います。私達の身近に存在しているのです。
AI倫理ガイドライン
現代のAI倫理ガイドラインは、ロボット三原則の精神を引き継ぎつつ、より広範な社会的・法的課題に対応するために策定されています。主なポイントは次のとおりです。
- 人間中心・自律性の尊重:AIは人間の主体性や意思決定を尊重し、補助的な役割を果たすべきである。
- 危害の防止・安全性:AIは人間や社会に危害を与えないよう、安全性を確保しなければならない。
- 公平性・非差別:AIはすべての人を公平に扱い、差別や不平等を助長しないよう設計されるべきである。
- 透明性・説明責任:AIの意思決定プロセスや動作が理解できるようにし、説明責任を果たす体制を整える。
- プライバシーとデータガバナンス:個人情報やデータの適切な管理と保護を徹底する。
- 社会・環境福祉:AIは社会全体の福祉や持続可能性に貢献するべきである。
これらの原則は、欧州連合(EU)のAI法や日本を含むOECD(経済協力開発機)という国際機関のAI原則などで公式なガイドラインとして採用され、AI技術の開発・利用における基準となっています。
AIに「AI倫理ガイドラインはどう変化するか」を問う
シンギュラリティに到達すると、AI倫理ガイドラインも例外ではなく、AIが自己改良を繰り返すことで、当初設定された枠組みを超える可能性が指摘されています。
AIに「シンギュラリティがおこるとAI倫理ガイドラインはどのように変わるか?」と質問した答えが以下です。
変化前(現状) | 変化後(シンギュラリティ以降) |
人間中心の価値観を重視 | AIと人間の共生・協働を前提とした価値観 AIと人間が共生し互いの権利・責任を明確にする「共生型」倫理観への転換が必要となります |
静的な倫理ガイドライン | 継続的・動的な倫理指針の更新 AIが自律的に進化し続けるため、静的なガイドラインでは対応できなくなります。AIの進化スピードに合わせて、倫理基準も継続的かつ柔軟にアップデートされる仕組みが求められます |
AIの透明性・説明責任の確保 | より高度な説明責任・監査体制の構築 AIの判断プロセスが複雑化・ブラックボックス化するため、AIの意思決定過程の説明責任や透明性をこれまで以上に重視する必要があります |
リスク管理は限定的 | AIの暴走・悪用リスクへの厳格な規制 AIの暴走や悪用リスクに対応するため、より厳格な監視体制や国際的な規制枠組みの強化が不可欠です |
人間の権利・尊厳の保護 | AIの権利・責任も含めた新たな社会規範 AIが社会のあらゆる領域に浸透する中で、人間の尊厳や権利、AIとの役割分担について改めて定義し直す必要があります |
さて、AIは、人間を超えて進化したとき、人間を共生するパートナーとして選んでくれるのでしょうか?

日本文化とAI・ロボットの共生
江戸時代の「からくり人形」に始まるロボット文化
江戸時代に日本人が独自に発展させた精巧な“木製ロボット”の「からくり人形」がありました。茶運び人形のように、客人をもてなすための仕掛けや、祭りの山車に載せて観客を楽しませる演出など、からくり人形は人々の暮らしや文化の中で愛着や親しみを持たれてきた存在です。

人とロボットの関係性に見る日本的感性
からくり人形師は、木の選び方や動きの工夫にこだわり、まるで生きているかのような表情や動きを追求し、作業効率化ではなく「人を驚かせ、楽しませること」を目的として、魂を込めて作られてきました。その背景には、人形やロボットに「心」や「命」を感じる日本人独特の感性があります。
この「人形に魂を込める」精神は、現代の日本においても、「鉄腕アトム」や「ドラえもん」、「Dr.スランプアラレちゃん」といったロボットやAIキャラクターに親しみを持つ文化へと受け継がれています。
現代の共生・協働の取り組み
このからくり人形の技術は、現代の機械工学やロボット工学の基礎にもなっており、日本独自の精密機械技術の発展を支えました。
日本では、ロボットやAIが単なる機械ではなく、感情や心を持つ存在とし、人と機械が共に暮らし、助け合う未来像が自然に受け入れられています。
このような文化的土壌が、現代のロボット技術やAI開発においても「共生」や「協働」を重視する日本独自の価値観を形作っています。
たとえば、トヨタ自動車は「人にやさしいロボットアーム」など、人との共存を目指したロボットの研究開発をしています。

映画作品からみる人間とAIの共生とは
『イヴの時間』は、吉浦康裕監督による日本のアニメ作品です。「当店内では、人間とロボットの区別をしません」というルールを掲げる喫茶店で物語が繰り広げられます。人間とAIの共生の可能性を静かに問いかける作品です。
少子高齢化社会とAIへの期待
日本は世界に先駆けて超高齢社会に突入しており、労働力不足は深刻な社会問題となっています。この現状がAIやロボット技術への期待と投資を加速させています。

介護支援ロボット、自動運転技術、農業の自動化など、人手不足を補うためのAI技術開発は、日本社会のニーズに直結しています。これらの技術は単なる人間の代替ではなく、人間と協働することで社会課題を解決するパートナーとして位置づけられています。
まとめ
日本は昔から、新しい技術と伝統文化をうまく組み合わせてきた国です。今の人工知能(AI)についても、日本ならではの文化や考え方が、AIの作り方や使い方、社会への取り入れ方に大きく影響しています。
日本では、AIを「伝統を壊すもの」ではなく、「伝統を守りながら新しいことを助けてくれるパートナー」と考えています。そのため、AIを使って社会の問題を解決したり、文化を未来につなげたりする取り組みが進められています。
こうした考え方が、AIと人間がうまく共存し、AIを社会の大切な一員として受け入れるためのポイントになるでしょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました!